大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和54年(ワ)7757号 判決

原告

大竹哲子

右訴訟代理人

田中晴男

外六名

被告

北嶋登

右訴訟代理人

田中和

西山鈴子

被告

三浦六郎

外三名

右四名訴訟代理人

谷浦光宜

主文

一  原告に対し被告北嶋登はその余の被告らと連帯して八二二万一五五九円、同三浦ヤヨイは同北嶋登と連帯して二七四万〇五二〇円、同三浦六郎、同三浦ミヨ、同山口トキはそれぞれ同北嶋登と連帯していずれも一八二万七〇一三円及び右各金員に対するそれぞれ昭和四九年五月二〇日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一、第三項に限り、仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二1  請求原因2の事実について判断するに、原告が昭和四九年五月二〇日、三浦接骨院で腰部捻挫の治療を受けたこと、これに対し被告北嶋がその治療として原告に対し、回転頸椎(坐位)矯正法による治療を施したことは当事者間に争いがない。

2  そこで、右争いのない事実に、鑑定の結果、鑑定証人齋藤弘の証言、〈及び証言、書証〉を総合すると次の事実が認められる。

(一)  原告は昭和三一年五月二七日生れの女子であり、昭和四九年五月当時高等学校の三年に在学していたが、同月一八日学校の体育の授業中に背筋を痛めたところから、同日その治療のため三浦接骨院に赴いた。同院において柔道整復師として勤務していた被告北嶋は、原告を触診した結果第三腰椎及び第三頸椎に亜脱臼があるものと認め、同日及び二〇日の両日にわたり原告に対し被告北嶋の主張1(一)のとおりの交差両側横突起豆状骨矯正法による治療(約五分間程)及び回転頸椎(坐位)矯正法による治療(約15.6秒程)を加えた。ところが原告は、二〇日に、頸部について右の回転頸椎(坐位)矯正法による治療を受けた際、一八日における場合よりも強い力が加えられたように感じるとともに、その直後から当日夜にかけて悪心、眩暈、吐気、頭痛、下肢の痙攣等が生じるに至つた。そのため原告は以後も三浦接骨院に通院し、右の症状について被告六郎の柔道整復術による治療を受けたほか、同年六月二〇日ころには東京慈恵会医科大学附属病院形成外科で診療を受け、また同年七月一九日からは「頸部捻挫」の病名で南郷外科病院に、同年一二月二〇日からは「頸椎捻挫」の病名で前記大学附属病院整形外科に通院して治療を受け、今日に至つている。

(二)  原告の現在の症状は、自覚的には、依然として頸部の痛み、吐気、眩暈等が続いており、特に雨の日、季節の変り目などには頸部痛、右手の痺れ等が著しい。また他覚的には、頸部について後屈運動に高度の障害が認められ、また頸部の他方向の運動にも制限があり、右の後屈運動時には項部に疼痛も認められるほか、項部右側より背部、右肩胛骨内側及び僧帽筋縁には圧痛があり、右項部下部から肩部、肩胛骨内側部にかけての部分及び右手関節から末梢部にかけてのいわゆる手袋状の部分には触痛覚の鈍麻が認められる。更に原告の握力は左側が二一キログラム、右側が九キログラムと、特に右側が著しく低下している。一方、レントゲン写真による頸椎の所見によると、その正面像においては、第四、第五頸椎間鈎関節に軽度の骨辺縁隆起が、第五、第六頸椎間右側鈎関節に裂隙の狭少化が認められ、その側面像においては中間位像で第五頸椎椎体下部前縁に小骨棘の形成が認められている。

(三)  原告の右症状は頸部に外傷等を受けたことにより生じた「頸部捻挫後遺症」に基づくものであり、いわゆる鞭打症によるものとほぼ同様であつて、被告北嶋が原告に対し施した前記回転頸椎矯正法によつても過度の力を加えるなどそのやり方如何によつては生じうるものである。そして右症状は昭和五二年当時において既に固定しており、その後は前記大学病院においても治療を取り止め、専ら経過を観察している状態にある。したがつて右のような原告の後遺障害はその症状からみて労災補償保険法に基づく身体障害等級表のうち一二級一二号に該当するものと考えられる。

以上の事実が認められ〈る〉。

三請求原因3について

1  右二における認定事実によれば、原告の現在の症状は被告北嶋が昭和四九年五月二〇日に原告に対し回転頸椎(坐位)矯正法による治療を施したことにより生じたものというべきであり、そうであれば同被告は柔道整復師として右矯正法を施行するにあたり、治療上要求される適度の力を使用すべき注意義務があるにもかかわらず、それに反し、必要限度を超えた力を使用した過失があつたものと推認するのが相当である。したがつて被告北嶋は原告に対し民法七〇九条に基づき右施術により生じた原告の損害を賠償すべき責任を負うものというべきである。

2  訴外亡甚衛が本件事故当時被告北嶋の使用者であつたことは当事者間に争いがなく、これによれば同人は同被告の右行為について民法七一五条による損害賠償責任を負うものというべきである。そして同人が昭和四九年一〇月三日に死亡し、同人の妻である被告ヤヨイがその三分の一、同六郎、同ミヨ、同山口がいずれもその九分の二宛を相続により承継したことは当事者間に争いがない。

四請求原因4について

1  逸失利益について

原告の本件事故による労働能力の喪失割合は前記のとおりの後遺障害の程度(一二級一二号)から勘案し、一四パーセントと認めるのを相当とする(なお右喪失割合は労働基準監督局長通牒昭和三二年七月二日基発第五五一号によるものであるが、それ自体合理性を有しないものではなく、本件においては右割合を用いることとする。)。

また原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は四年制大学を昭和五四年三月に卒業したものであることが認められる。したがつて原告の逸失利益を算出にあたつては口頭弁論終結時における最近の昭和五四年度賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計女子大卒全年齢女子労働者の平均賃金を基準とし就労可能年数を大学卒業後の二二歳から六七歳までの四五年間とすべきである。そうすると昭和五四年度の賃金センサスにおける「きまつて支給する現金給与額」は一か月一五万五一〇〇円、「年間賞与その他特別給与額」は五二万四一〇〇円であるので、右数値を用い、新ホフマン係数により中間利息を控除して逸失利益を計算するならば、次のとおり六七九万一五七八円となる。〈省略〉

2  慰藉料

〈省略〉

3  弁護士費用

〈省略〉

五結論〈省略〉

(川上正俊 持本健司 林圭介)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例